大船渡 釣行記

最近全く釣りに行けてない。
行く時間が無いわけではないのだが、原油値上がりの昨今、むやみに車の燃料を消費するのもなんだかためらわれ、
何よりも節約を第一とせねばならぬ生活状況となれば、贅沢など遠いお星様のおハナシなのであって、
だから沿岸に所用がある時は、釣り道具も供連れとなり、束の間の潮騒の香りを楽しむ事となる。

大船渡に所用があったこの日曜日、役目を終えた私の姿は長崎漁港に在った。
ふだん高田から北に上がる事のない私にとって、大船渡の海はなかなか魅力的であり、
この季節はヤリイカ、大型のアイナメ、カレイに回遊魚のサバまで、魚種が豊富なのが嬉しい限りである。

思えば本格的に海釣りに出るようになって3年、未だにヤリイカだけは釣ったことが無かった私は、
何とかあの、ほのかに甘みがあって軟らかく、新鮮なイカ刺しを食してみたいと夢想していた。
イカ釣りの方法はいくつかあるが、陸っぱりから、即ち堤防などから釣る場合は、
エギと呼ばれる疑似餌を投げる釣りと、生きた小魚やササミなどを使ったエサ釣りがある。
エギは私も過去に買い求めたものを数個所有していたのだが、決して安くないこれらの疑似餌が、
根掛かりなんぞで海の藻屑と消え去り、天を仰いでさめざめと涙をこぼす結果となってしまうことは、
最近万事について慎ましく、倹約に励み、若しくはケチケチ大魔王と化している私にとっては堪えられるハナシではなく、
むしろより効率的且つ省コストで済ます、高邁且つ崇高な釣法を熟慮の上、次の考察を得たのである。

手持ちのエサは去年から冷凍保存してある体長2センチほどのアミエビが1パックと、撒き餌用の配合エサだけである。
そこでまず、小竿でイカのエサとなる小魚を釣り、これを生きエサとして"泳がせ釣り"をすれば良いではないかとヒラめいた。
おおっ これは天才的な考えではなかろうか!と私はイキリ立ち、前夜、いそいそとその仕掛け作りを始めた。
無論、金さえ出せばこれらの仕掛けなんぞいくらでも買える。だがしかし、既成の品がなんぼのモノか。
たとえ苦心惨憺したとしても、自分で作り上げた仕掛けで目指すサカナを釣り上げることこそが、
釣師の本懐とゆーものであり、道楽に於ける至上の喜び、とゆーものではないか。云々。


前日の雨がウソのように、大船渡の海は薄く晴れ渡っていた。
サビキの仕掛けに先ず食らいついたのが、体長8センチほどのカサゴだかムラソイの類。
早速これを自作の仕掛けに引っ掛け、船道に流す。ウキが波間に漂い、夕日の中に影を落としていた。

続けざまに小竿に小アジが4匹。これを海水を張ったバッカンに移し、ポンプでエアを流しておく。
すると、先ほど流した仕掛けのウキが、大きく海中に引き込まれるのが見えた。
すかさず竿を立てる。ドラグが唸りをあげ、細かい振動が竿を操る指先に伝わる。どうやらイカではなく魚のようだ。
暴れまくる魚を右手一本で捩じ伏せ、海面から引っこ抜くと黒っぽい魚体が姿を見せた。
最初はアイナメだと思ったが、背中のトゲトゲが指にグサリと刺さり、アイタタタッと指をしゃぶりながら良く見ると、
それはソイのようであり、さらにライトを当てて確認してみると、実に体長30センチあまりのクロソイであった。
ソイという魚は人によっては聞き慣れぬ名と思われるだろうが、スーパーなどに流通する量はごく少数であれこそ、
三陸沿岸ではアイナメ(アブラメとも言う)と並んでその生息数も多く、かなりポピュラーな魚である。

さて今度こそイカだっ! とばかりに、釣り上げたばかりのアジをエサに仕掛けを流す。
じっとウキを見詰めていると、アタリがあるような、ないような…。
次の瞬間ウキがすっと沈んだ。 おっ? 竿に重みが圧し掛かる。
慌てて竿を合わせたが、しばしの沈黙の後プツリと重みが消えた。
な、なんですと!? ああっ! バレたぁ〜っ!
仕掛けを引き上げてみるとアジの姿なんかどこにもありゃしない。 トホホ、エサだけ盗られてバラシちゃったのねん…。
ウヌレッ! 私はフンガーと鼻息を荒くして第2投目。 しかし、待てど暮らせどアタリなんかありゃしない。
暫くして仕掛けを上げてみると、さっきまで生きていたアジがズタズタのヨレヨレとなり、てゆーか半分ホネになっており、
私は更にフガフンガーと鼻息を荒くして第3投目。だがやっぱりアタリなし。
ところが頭だけ残ったアジの先の掛け針に、同じような小アジが付いてきた。おいおい、共食いすんなよナー。
って…まあエサが手に入ったし、いっか! イカだけに…ってなもんで第4投目。
アタリがあったようには思えなかったものの、引き上げた針先には念願のイカが!
ただし胴長12センチほど。 ちっちゃ! 足の短いところをみるとヤリイカのようだ。
くそぉ〜 さあ最後のアジだ! とっとと食って引き込みやがれェ〜ってなもんで最後の第5投目。
まん丸のお月さんが真正面で目の前を照らしてくれている。おおっ、そういや今夜は大潮じゃねぇかい。縁起がイイネ。
さあとっとと来やがれ!ホレホレホレっとキバっていたらホントに来やがった! 嗚呼ウキが引き込まれる! 竿がしなる!
まてまてッ 慌てるなッ 慌てるなッ 慌てるなーと言いつつも、フンガーと竿を上げたら…

またバレた。
「ああっ くやちい!」
私は地団太を踏んだが、その音も月に照らされたコンクリート堤防の波間に、掻き消されていくだけのようであった。


翌日の朝、ヤリイカはイカ刺しでいただき、クロソイも三枚に卸して刺身にしてみた。
アイナメほどではないにしても、クロソイの刺身はちょっとこりこりした食感が絶妙と思った。
ヤリイカはやはり刺身が美味い。今はスーパーでも買えるが、自分で釣ったヤリイカの味は別物と思えるほどに美味い。
何より新鮮さにおいてこれに勝るものはないだろうし、これぞ釣り人の特権といって過言でないだろうから。


今月末は遠野でイベントの由だが、隣町は釜石だ。
この時期はまだサバが釣れるし、イカの寄りもいいと聞く。
私はチームエアロの準備はそこそこに、釣り道具の手入れには余念がないのである。




(10/20 05')